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仙台地方裁判所 昭和62年(ワ)1283号 判決 1989年2月23日

原告

小沢ひろ子

被告

有限会社大橋工業

ほか一名

主文

被告らは原告に対し、連帯して、金五八万円及びこれに対する昭和六〇年一一月六日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを九分し、その一は被告らの連帯負担とし、その余は原告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立

原告は、「被告らは原告に対し、連帯して金五〇七万〇四八八円及び昭和六〇年一一月六日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

被告らは、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二主張

一  請求原因

1  被告梅崎保則(以下、「被告梅崎」という。)は、昭和六〇年一一月五日午前一一時四五分頃宮城県宮城郡利府町神谷沢字金沢五六番地先路上において、普通貨物自動車(以下、「加害車」という。)を運転中、前方を注視せず安全運転を怠つたために、原告が運転する普通乗用自動車(以下、「被害車」という。)に追突し(以下、「本件事故」という。)、原告に頸椎捻挫、頭部打撲の傷害を負わせた。

2  原告は、次のとおり本件事故による傷害の治療を受けた。

(一) 中嶋病院

昭和六〇年一一月五日より同六一年二月二四日まで通院(通院期間一一二日、内治療実日数七日)

(二) 齋藤内科医院

昭和六一年六月一八日往診

(三) 泉病院

(1) 昭和六一年六月一八日より同月一九日まで入院(入院日数二日)

(2) 昭和六一年六月二〇日より同年八月二五日まで通院(通院期間六七日、内治療実日数二日)

(四) 東北労災病院

昭和六一年八月三〇日より同年九月九日まで通院(通院期間一一日、内治療実日数整形外科四日、耳鼻科四日)

(五) 阿曽沼整形外科医院

昭和六一年九月八日より同年一〇月一〇日まで入院(入院日数三三日)

3  本件事故の結果、原告は以下の損害を被つた。

(一) 治療費 一九万二八二六円

診断書及び診療報酬明細書代を含み、国民健康保険支払分は除く。

内訳

(1) 中嶋病院 九万二八〇〇円

(2) 齋藤内科医院 四二三〇円

(3) 泉病院 一万二五六〇円

(4) 東北労災病院 一万六七九六円

(5) 阿曽沼整形外科医院 一五万九二四〇円

(6) 右治療費の合計二八万五六二六円のうち、九万二八〇〇円は被告らより既に支払われたので、その残額は一九万二八二六円である。

(二) 入院雑費 四万二〇〇〇円

入院日数三五日間について、一日につき一二〇〇円の割合による入院雑費の合計

(三) 通院交通費 一万二一〇〇円

泉病院へのタクシー代金七五〇〇円及び労災病院へのバス代(片道四六〇円として五日分)の通院交通費

(四) 休業損害 三三四万三五六二円

これは、原告が本件事故前、有限会社東京デイスカウント百貨に勤務し、月額三〇万円の給料を得ていたところ、昭和六〇年一一月六日から同六一年一〇月一〇日までの三三九日間右勤務に従事できず、右期間中支給されなかつた給料相当額である。

(五) 入通院慰藉料 一〇二万円

原告は、本件事故による障害のため入通院を余儀なくされ、連日肉体的、精神的苦痛に悩まされた。右苦痛に対する昭和六一年一〇月一〇日までの慰藉料としては一〇二万円が相当である。

(六) 弁護士費用 四六万円

原告は本件訴訟の提起、遂行を原告訴訟代理人に委任した。そこで本件弁護士費用のうち請求金額の約一割である四六万円を被告らに負担させるのが相当である。

4  右2の治療行為及び右3の損害は総て本件事故との間に相当因果関係がある。

5  被告有限会社大橋工業(以下、「被告会社」という。)は加害車の運行供用者である。

6  よつて、原告は被告梅崎に対しては民法七〇九条に基づき、被告会社に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害合計五〇七万〇四八八円及びこれに対する事故発生の翌日である昭和六〇年一一月六日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、被告梅崎が原告主張の日時、場所において加害車を運転中、被害車に追突したことは認め、その余は否認する。

2  同2の事実中、原告が中嶋病院において主張のとおり治療を受けたことは認め、その余は不知。

3  同3の事実中、中嶋病院に関する部分は認め、その余は否認する。

4  同4については、中嶋病院における治療及び右病院における治療費としての原告の損害と本件事故との間に因果関係があることは認めるが、その余は否認する。

5  同5は認める。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故は、被害車が突然右折の合図をし、道路中央部付近で停車したために加害車が追突したものである。よって、原告にも過失があるから、被告らが既に支払済の治療費九万二八〇〇円をも含めたうえで、原告の過失割合を三〇パーセントとして過失相殺をすべきである。

四  過失相殺の抗弁に対する認否

否認する。原告に過失はない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  本件事故発生の事実は、被告梅崎の過失の点を除き、当事者間に争いがない。

右除外点について判断するに、成立に争いのない甲第一七ないし第二〇号証、第二二、二三号証、乙第一号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件事故の状況等につき以下の事実を認めることができる。

原告は請求原因1記載の日時、場所において被害車を運転し、知人が運転する車両の先導を受け利府バイパスに通ずる道路に右折進入しようとして追随中、右先導車両が右地点で右折したのでこれに従おうとして減速した。被告梅崎は被害車との間に約一五メートルの車間距離をとり、時速約三〇キロメートルで走行していたが、被害車がそのまま直進するものと思い込み、且つ右折した先行車両に気をとられ前方の注視を怠つた。そのために被告梅崎は、右折するために減速していた被害車の発見が遅れ、同車を車間距離約八・六メートルの地点で発見し、慌てて急制動をかけたものの間にあわず被害車に追突した。右追突の結果、被害車は後部バンパー、フエンダーの凹損を、加害車は前部バンパー、グリルの凹損を生じた。

右認定事実によれば、被告梅崎には本件事故に関し前方不注視の過失が認められるので、前記争いのない事実をも勘案すると、同人に民法七〇九条の不法行為責任原因があるというべきである。

被告会社が加害車を運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。したがつて、被告会社に自動車損害賠償保障法三条による運行供用者責任の原因事由があるのは明らかである。なお、被告らは抗弁において原告の過失を主張するが、原告の過失を認めるに足りる証拠はないから、右主張には理由がない。

二  そこで以下、被告らの責任範囲につき判断する。

1  最初に、本件事故の後原告が受けた治療及び診断の内容並びに原告のその後の症状について検討するに、成立に争いのない甲第四、第五、第一六号証、乙第三ないし第一七号証、第一九、第二〇号証、第二三ないし第二八号証、証人近藤正道の証言により成立を認めうる甲第一号証、原告本人尋問の結果により成立を認めうる乙第三二号証及び原告本人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができる。

原告は本件事故後の実況見分が終了した後、同日中に中嶋病院で中嶋医師の診察を受け、全治二週間を要する頸椎捻挫と診断された。その後原告は昭和六一年二月二四日までの間右病院に通院して同医師による治療を受けていたが、その通院日数は事故日も含めて一一月は四回、一二月、翌六一年一月及び二月は各一回だけであつた。その最終診察日である二月二四日原告は同医師により順調に経過して治癒した旨診断された。

その後原告は、同年四月頃から第三者、殊に同年八月頃からは、〝菊誠同志会〟なる団体に所属する者を介して再三にわたり被告らが任意保険に加入していた興亜火災海上保険株式会社に保険金の支払を請求したが、右保険会社は原告の主張する休業損害等が過大であることを理由に右支払には応じなかつた。

同年六月一八日原告は、知人宅において突然意識を喪失したとして齋藤内科医院の医師の往診を受け、泉病院に当日及び翌日の二日間入院し、意識消失発作と診断され、その後も同年八月一八日及び二五日の二回右病院に通院した。その後原告は同月三〇日からは東北労災病院整形外科の、九月四日からは眩暈を主訴として同耳鼻咽喉科の通院治療を受け(通院日数は以下述べる第二事故までの間各四日である。)、同整形外科では頸椎捻挫との、同耳鼻咽喉科では外耳炎、眩暈症との診断を受けた。この間、原告は東北労災病院が満床のため九月八日以降阿曽沼整形外科医院に入院し、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷病名にて治療を受けた。但し、右傷病は原告の申告のみに基づくものであつた。

ところが右病院に入院中の同年一〇月一〇日、原告は右病院を外出して車を運転中、佐藤真美の運転する車両に追突されるという事故(以下、「第二事故」という。)に遭い、以後継続して右病院に入院しながら、東北労災病院の眼科、心療内科、耳鼻咽喉科、整形外科に各通院して治療を受けた。この間の診察において、原告は、東北労災病院の眼科では原告の視力調節機能が減弱している疑いがあるとして近視、調節不全疑との診断を、同心療内科では原告に軽度の脳波異状が認められるとして、頭、頸部打撲による外傷後遺症、災害神経症との診断を、同耳鼻咽喉科では原告の両耳に軽度の混合性難聴が認められるとして眩暈症との各診断を受けている。また、原告は、高倉耳鼻咽喉科医院では両側神経性難聴、眩暈症、左耳管狭窄症と診断された。

なお、阿曽沼整形外科医院医師阿曽沼要は、原告の頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷病について、昭和六二年七月三一日に症状が固定したと診断している。

2  そこで以下本件事故の結果原告が被つた傷害の内容、程度について判断するに、右1で認定した事実を基礎とし、前掲乙第三ないし第五号証、甲第二〇号証、第二二号証、原告本人尋問の結果(但し、措信しない部分は除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

前記中嶋医師は、原告には初診時において意識障害はないと診断し、また、原告の頸椎、頭部のレントゲン検査を実施したところ、右検査の結果原告の頸椎、頭部には何ら異状を認めなかつた。

被害車にはむち打ち事故防止のためにヘツドレストが設けられていた。また、原告は中嶋医師の診察を受ける前に実況見分に立会い現場指示をした。更に原告は、昭和六〇年一二月九日塩釜警察署司法警察員に対し、追突された後すぐに後ろを振り返り追突した加害車の位置を確認している旨、及び自分の怪我は大したことがなかったのであまり強い処罰は望んでいない旨述べ、また同六一年一月二〇日仙台区検察庁の電話問合わせに対し、「私の怪我は診断書のとおり二週間の治療で良くなつておりますが、天候とか疲れたときなど首が苦しく感じるのです。」と述べている。

中嶋病院において治癒したとの診断を受けた後原告は、前記齋藤内科医院の医師の往診を受けるまでの間本件事故による傷害に関して病院での診察、治療は一度も受けていない。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲その余の証拠に対比し、且つ次に判示するところにより、採用することはできない。右事実及び前記1に認定判示した事実によれば、本件事故により原告が被つた傷害は軽度の頸椎捻挫及び頭部打撲に過ぎなかつたと解すべきである。

この点、原告はその本人尋問において傷害の程度につき追突を受けた際に頭部を座席のヘツドレストに打ちつけ、意識を失つた旨供述する。しかし右供述は、先の認定事実、とりわけ初診時において原告には意識障害は認められなかつたこと、中嶋病院での頸椎、頭部のレントゲン検査の結果原告の頸椎、頭部には何ら異状が認められなかったこと及び事故後の司法警察員に対する前記供述内容を総合すれば、原告が本件事故の際強いシヨツクを受け、頭部をヘツドレストに打ちつけたとの事実までは推認できるとしても、その衝撃が頸部、頭部に与えた影響は、事故時における原告の着坐状態或いはヘツドレストの効果のためか、幸いにもさほどのものではなく比較的軽度であつたと言うべきであつて、意識を失つたとの原告の右供述部分は措信することができない。

3  そこで次に、原告が昭和六一年六月一八日以降に発症したと供述する諸症状と本件事故との間の因果関係の存否について検討するに、右認定のとおり本件事故によつて原告が被つた傷害の程度は、軽度の頸椎捻挫、頭部打撲に過ぎず、初診時において原告に意識障害の事実は存しなかつたこと、中嶋病院において数回通院治療を受けただけで先に認定したとおり昭和六一年二月二四日順調に治癒したと診断されていること、その後原告は同年六月一八日までの間は本件事故に関し病院での治療は一切受けていないこと、成立に争いのない甲第一三号証の四によればむち打ち損傷(頸椎捻挫、バレー・ルー症候群、神経根型)は整形外科や脳神経外科医の間では数週間で治るものであると見做されていること、以上の事実を総合考慮すれば、本件事故と因果関係を有する傷害は軽度の頸椎捻挫、頭部打撲の範囲に止まり、右傷害も昭和六一年二月二四日までに順調に治癒したものと解すべきであつて、同年六月一八日以降原告に発症したとされる意識喪失、頸椎捻挫、外耳炎、眩暈症、外傷後遺症、災害神経症等の諸症状は総て本件事故との間の因果関係はないものと解すべきである。

この点原告はその本人尋問及び陳述書(前掲乙第三二号証)において、中嶋病院では湿布と投薬という形での治療を受けていたものの、どんどんあちこちの痛みが激しくなり、かえつて症状が重くなつたため、自分で太陽光線治療の機械を購入し、治療を続けたが良くはならず、その後(陳述書によれば同年四月頃以降)は眩暈、頭痛がひどくなる一方であり、昭和六一年六月一八日知人宅で眩暈とともに意識を失い、齋藤病院の医師の往診を受け、泉病院に入院し、以後東北労災病院、阿曽沼整形外科医院に入通院したと供述する。しかしながら、原告自身中嶋医師の治療方針及び順調に経過し治癒したとの同医師の診断に不満があれば、他の病院の診察を受け、症状を訴え、自己が期待するような治療を求めるのが通常であると思われるところ、原告は何らそのような行為に出ていない。また原告が供述するような頑固な体の痛み等の症状を訴えられていたら、医師が「順調に経過し治癒した」との診断をたやすく下すものとも思われないところである。これに加え、先に認定したとおり原告自身全治二週間を要するとの中嶋医師の診断のとおり二週間で症状は良くなつている旨述べていることを併せ考慮すれば、原告に事故後継続して原告が供述するような症状があつたとの事実を認めることはできない。

また先に認定したとおり、原告の頸椎捻挫、頭部打撲は軽度のものに過ぎず、しかも頸椎、頭部のレントゲン検査(中嶋病院の他にも、前掲乙第七号証、第八号証、第一七号証によれば、原告は東北労災病院、阿曽沼整形外科医院においても頻繁に頸部、頭部のレントゲン検査を受けていることが認められる。)の結果によるも原告の頸椎、頭部には何ら異状が認められていない以上、その程度の頸部及び頭部の打撲によつて、事故後数ケ月も経つてから原告が供述するような眩暈、頭痛の症状が生じるとは容易には考え難いところである。

したがつて、仮に昭和六一年六月一八日以降原告が供述するような症状が突然発症したとしても、以上判示してきた諸事情並びに、右症状の発症時期が原告が第三者を介して保険会社に多大な保険金の支払を請求してこれを拒否された時期以後である事情も含めて考えれば、それらの症状は詐病とは言えないまでも、本件事故とは関係のない事故前からの原告の体質等他の何らかの原因によるものか、あるいは、自己が主張するような賠償額を受けられないことへの不満を要因とする心因反応に過ぎないものと言うべきであり、これらの症状と本件事故との間に因果関係を認めることはできないと解すべきである。

なお、前掲乙第七号証、甲第一六号証によれば、原告は昭和六一年一二月及び同六二年二月に脳波検査を受け、右検査の結果原告には軽度の脳波の異常があるとされ、東北労災病院心療内科医師山内祐一は原告の軽度の脳波異常は頸部及び頭部の打撲による外傷後遺症と理解すべき病態であると診断していること、また前掲乙第一三号証、第二七号証によれば、原告は高倉耳鼻咽喉科医院において昭和六二年一月一六日及び同年二月一九日の二度聴力検査を受け、右検査の結果混合性難聴の症状が存するとされ、寝東北労災病院耳鼻咽喉科医師佐々木美隆は原告の訴える眩暈は意識の障害を伴うもので、中枢性障害によるものが疑われると診断しているが、山内医師及び佐々木医師の右各診断は本件事故における原告の頭部打撲の程度を考慮してのものではなく、また右脳波検査、神経耳鼻科的検査を行つたのが、先に判示したとおり中嶋医師によつて順調に経過し治癒したと診断されてから半年以上経過した後の第二事故の後であること及び本件追突事故による原告の傷害の程度が軽度のものであつたことに照らせば、右各診断内容となつている諸症状が本件事故によつて生じたものであると認めることはできない。

4  以上判示したところによれば、原告に認められる損害額は以下のとおりである。

(一)  治療費

原告が受けた治療の内、本件事故と因果関係の認められるのは中嶋病院における治療分のみであるから、右病院における治療費九万二八〇〇円のみが被告らの負担すべき原告の損害であり、その余の治療費に関する請求は理由がない。但し、中嶋病院分の治療費が既に原告に支払われていることは原告の自陳し且つ本訴請求が除外している費目であるから、本件においては、治療費に関し原告に認められる損害は存しない。

(二)  入院雑費、通院交通費

原告が泉病院、阿曽沼整形外科医院に入院し、泉病院、東北労災病院に通院したことと本件事故との間には因果関係がない以上、右入通院が本件事故によるものであることを前提とする右入院雑費及び交通費の請求は理由がない。

(三)  休業損害

原告は、本件事故前有限会社東京デイスカウント百貨に勤務し、月額三〇万円の給料を得ていたとの事実を前提として、昭和六〇年一一月六日から昭和六一年一〇月一〇日までの三三九日間右勤務に従事できなかつたとの理由に基づき、右期間中支給されなかつた給料分三三四万三五六二円を請求し、本人尋問においてこれに副う供述をしている。しかしながら、前掲甲第四号証によれば原告が右有限会社に常務取締役として採用されたのが同年九月五日とされているところ、前掲甲第一号証、謄本申請書及び登記簿謄本の成立については当事者間に争いがなく、その余については証人松浦茂の証言により成立を認めうる甲第六号証によれば、右有限会社の役員欄には原告の名はなく、かつ、右有限会社は昭和六〇年八月既に倒産しており、同年一二月までの間残務整理を行つていたとの事実が認められるのであつて、かかる事実によれば原告が同年九月五日以降右有限会社に常務取締役として採用され勤務していたこと自体疑わしいだけでなく、右有限会社から月額三〇万円もの給料を得ていたとの原告本人の供述は到底措信できないところである。更に、以上判示したとおり原告の被つた傷害はそもそも軽度の頸椎捻挫、頭部打撲に過ぎず、入院治療を要した訳ではなく、しかも順調に経過し治癒したと診断された昭和六一年二月二四日までの間にわずか七日間通院しただけで治癒したと診断を受ける程度のものであつた以上、そもそも原告が右有限会社の勤務に従事できなかつたとの事実を認定することはできない。したがつて、本件において原告に休業損害を認めることはできず、七日間通院したとの事実は次の慰藉料を算定する際の事情として考慮すれば足りると解すべきである。

(四)  慰藉料

原告が本件事故により頸椎捻挫、頭部打撲の傷害を受け、昭和六一年二月二四日までの間に七回中嶋病院に通院したこと、本件事故が被告梅崎の一方的な過失によるものであり原告に過失があつたとは認め難いこと等、本件に顕われた諸般の事情を総合考慮すれば、原告が被つた精神的苦痛を慰藉すべき金額はこれを五〇万円とするのが相当である。

(五)  弁護士費用

本件事故の内容、審理の経過、右認容額等の諸事情に鑑みると、弁護士費用として原告が被告らに対し賠償を求め得る金額は八万円とすべきである。

三  結論

よつて、原告の本訴請求は、被告らに対し五八万円及びこれに対する本件事故後の日である昭和六〇年一一月六日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからこの部分を認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条に従い、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林啓二 吉野孝義 岩井隆義)

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